星野さん六子局の名局

氣賀康夫記

囲碁三田会の主管するボード碁サイトで星野さんの六子局のお相手を務めました。星野さんは文学部出身の秀才で、囲碁を70歳過ぎで始めてまだ2年余りですが、たいへんな勉強家であり、本を読む勉強では周囲の追従を許しません。山下会長もその成長振りに注目しておられます。筆者は最近まで向こう井目でお相手しておりましたが、実戦不足を解消されれば急成長する予感がしておりました。今回のボード碁の6子局はまだまだかと思っているうちに強い手を連発され、最後は白の大石を召し取っての黒の快勝譜となりました。後から考えると、白も問題のある手を幾つも打っていますが、黒の打ち方が置き碁の見本のような打ち方であり、どんぐり会や甘栗会の方々にご覧いただきたくここにご紹介することにしました。

第一譜

第一譜をご覧ください。白@Bの立ち上がりに、(4)は最善だと思います。この場面では6子局ですと、黒(4)(41)のところに打つ人が多いのですが、黒(4)の方が大局的ないい手であり、白はこれは手ごわいと感ずることを付記しておきます。そしてDのカカリに(6)のコスミツケは基本どおりです。そして黒(10)のブラサガリを見て、白はJと様子を見ました。ところが、このJに見向きもせず、黒(12)と打ったのはいい感覚です。初級者の多くは(11)に対して反射的にその左のオサエで受けますが、そのオサエは利かされでしょう。そして、白Lに再び(14)のコスミツケも基本どおりです。さらに、白のRに対して黒(20)とサガッタの手は左下のサンサンを防いで隅の地を確定させ、同時に白の根拠を奪っています。白(23)に黒(24)は珍しい手ですが、白は黒が薄いと見て(25)(27)と打っていきました。このとき、白はこれが苦戦の原因となるとは思っていませんでした。ところが黒の(26)(28)がしっかりしており、ダメを詰められて白は自由がききません。仕方なく白は(29)まで打って(31)と切ったのですが、黒は(32)と単に伸びたのがたいへん筋のよい手でした。初級者は、この(32)でアタリを打たずに単に(32)とノビル感覚を大切にしていただきたいです。白はシチョウを避けて(33)とノビましたが、黒は(34)とがっちりツナギ、白のダメをツメ、白の(35)を強要しました。ここで黒が打った(36)も筋のいい手です。白(37)に黒(38)もいい手でした。白は仕方なく(39)のノゾキを利かして、(41)と守りました。ここで黒が打った手が(42)です。この手にはたいへん感心しました。後から見るとこの手をはじめとする黒の中央進出がこの碁を勝つ最大の原因になっています。(42)の何がいいかというとその一手が上下の白の連絡を断っている点です。これは意識が「守り」でなく「攻め」に向かっている証拠でしょう。

第二譜

第二譜で、白が(43)とトンだ手では少し工夫が必要でした。この手では(44)にボウシすべきだったと後から反省しました。その方が黒(42)の石が薄いはずです。ところが(43)と平凡に一間トビしたため、黒も(44)と好調の一間トビが打て、そして白(45)に対して、次の(46)が相手を分断していて素晴らしい打ち進め方です。一間トビに悪手なしというのはこの(44)(46)のようなタイミングの一間トビを指します。その結果、白はただ逃げるだけになりました。白はようやく(49)でボウシが打てましたが、これは証文の出し遅れという感じがします。その後の黒の(50)(52)(54)もすばらしく、白は二つの弱い石を抱えて大弱りです。

第三譜

第三譜でも黒は好調です。白は(55)と出たのですが、黒(56)は堅実ないい手でした。反省すると、白(55)自体が部分的な手であり、この手では11‐12にワリコムなど、すぐに中央をめざすべだったと反省しました。ここで白は(57)(59)とこの一団を守ることになりましたが、ここで、白(59)のノゾキに対して、手抜きで打った黒(60)がまた好点で、白は困りました。白は(61)に逃げましたが、黒(62)(64)の追求が厳しく、続く黒(66)も好調です。


第四譜

第四譜でも白は問題な打ち方をしています。白が(73)まで打ったところで次の白(75)が問題でした。この手では(75)の一路上に伸びるくらいに上の石を強化するのが急務でした。

ところが白(75)と普通に一子を抱えたのがこの局面では問題でした。それは(76)の切り返しが強烈だったからです。

第五譜

第五譜の黒(76)に次ぐ黒(78)も厳しいです。白は(79)から(83)までに狙いの切り筋を打ち、(85)まで打って白(87)(89)とこちらも切りを狙います。ところが黒が(90)と打った手が誠に賢く、白が(91)と打っても黒(92)でここが連絡なのですね。後から考えると白は(91)(90)の上にツナギ、黒の(91)を許して「お互いの平和に行きましょう」と提案すべきだったかもしれません。




第六譜

第六譜で白が(99)まで出て、(101)と打ったのは筋のようですが、ここは白がどう打っても黒が正確に応ずると白一眼ができないのでした。

第七譜

第七譜 黒の仕上げをみましょう。白(107)のとき手抜きで黒(108)と追求したのは厳しいです。黒(108)と打たれてみると、白の(107)が馬鹿手になっています。この手で(108)を打つ方がまだましでした。そうしたら、黒は三目の真ん中に中手をしてくるでしょうか。そして、白(109)のノゾキに黒(110)が賢い応手であり、これでは、(109)が悪手と化しています。こうなるくらいなら、白は(109)を保留して(111)に割込むべきでした。この辺りは黒の力を見損なっていました。白(113)に黒(114)と守ったのも劫を回避していて落ち着いたいい手です。そして白(115)に黒(116)も賢い応手でした。この黒(116)で仮に(115)の右に一子を抱えたりすると、(109)の下のキリが先手になるので事件です。そして、最後の白(117)に黒(118)も正確な応手です。白は(119)とデテ、黒は(120)とオサエました。ここの狙いは(120)の左の切りです。その後、黒が対応を間違うと事件が起る余地はありますが、よく検討してみると、実は黒が正確に応手すれは事件は起こらないことがわかります。

参考図1

(121)キリは参考図1の進行が白の狙いなのですが、この進行は必然ではありません。

参考図2

たとえは参考図2くらいに打てば白の狙いは不発に終ります。以上を考えて白は(120)

見て投了しました。星野さんの上達を証明する会心譜となりました。最後にこの棋譜をご覧くださった山下会長の好評を紹介しておきましょう。

「この碁の星野さんは強い!何よりも素晴らしいのは白の利かしに対して「ハイハイ」と応ずるのでなく、いいと思ったら手抜きをして、白の弱石の攻めに徹していることです。これは黒の完勝譜です。」

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